コグニティブな連携って?~私の夢想 その1
その2
その3


さて、それで先ほどお見せしたノートパソコンです。

云いましたっけ、見た目が古いパソコンを用意したのは、うっかり現地の人に見られても怪しまれないためです。ただ、古い機種のほんとうにそのままでは…当時のパソコンに入れられるデータの量って、今の私たちの感覚からするとあまりに少ないわけです。チームとしても、いざというとき確認できる情報が充分でないと困るので、内部的には「未来のスペック」が隠れていて、実際には2テラバイト程度のデータを入れられるようにしました。

2つ入ってるOSのうち、古い「表OS」には、当時のバージョンの「Lotus Notes」が入っています。
Notesはご存知ですか?見たことがない人は…かなり乱暴な言い方なんですが、いったんは、ネット上の掲示板やブログなどを想像してください。
タイトルが並んでいる中から、選択したら中身の文章が表示されるという類です。メールを想像していただいてもいいです。

Notesは、いわゆるご長寿ソフトのひとつですね。最初に出たのは1989年、日本語版は去年で40周年だったかな。ありがたいことに、過去のバージョンとも、けっこうデータの互換性があるんです。
さすがに、今のDominoサーバーと直接つなぐには若干細工が要ったと担当からは聞いていますが。

長い歴史の間に、デバイスを選ばす利用できるようになったとか、人工知能と標準連携しているとか、いろいろ機能拡張されています。
当時のNotesはパソコンからしか使えなかったんですが、つくりや考え方は一貫しているので、昔のものも、すぐ使いこなせます。

見た目は当時のパソコンなので、ふつうに立ち上げる分には、こんな画面…今の感覚だとずいぶん画像が粗いです。

「表OS」は昔のパソコンでも、「裏OS」は今のサーバーです。2テラの大半は裏OSが使用しています。データは裏OSのサーバー側にあるので、アクセスしているDBは現代のスペックなんですが、表面上はわからない。
現地でパソコンを使っているところを、うっかり人に見られてもごまかしが利くわけです。

Notesでどんなデータが見られるようになっていたか。
メインは、現地に行って帰ってくるための、装置…まあ「タイムマシン」と言って良いのでしょうか。その詳細な取扱説明書などです。単なる操作方法の他に、非常時のための、故障したら最悪自分で調整するためのガイドなども入っていました。それからプロジェクトで決めた議事録類とかの旅のルール・ガイドラインの細かなものなど、今回お話ししている「ばれない、怪しまれない、波風立てない」のために合意した、細かな決め事もココに記されていました。いずれも、紙で所持して、万一他人に見られてはまずいものです。

これら多くのDBは必要がない限り、行き帰りの無人空間でしか開かないように、万一何かの事故で帰れない状況になっても、現地の人前で開かないようにと固く固く約束させられていました。
ただNotesのデータは「裏OS」のサーバーに入っていますが、あくまで「表OS」の古い画面から覗くようになってますから、万一見られても、よほど詳しい人に見られるのでない限りは、現地の人にも怪しまれないと思います。

あと、持ち込んだ古いビデオカメラの取り扱い説明書を添付したDBもあります。ビデオカメラ自体は昔の機種なので、取説を紙で持って行っても本当は問題ないんですよ。ただ、2033年の現在には、昔の取説をデータ化したものが残っているだけで、元の紙の取説自体がもう残ってなかったんです。

ほかにチームではこんなことも考えました。
無知な旅人である私のためのネタ帳も入れておこう。
この時代を予習するための虎の巻を用意しておこう。百科事典であり歴史事典であり、当時の流行とかまでが詰まっているもの。
時事情報アプリデータベース、略して「時事DB」と呼んでいました。
ほかのデータ同様、裏OSのサーバー側に入っていて、表向きは古いNotesの画面から見ることができます。

先にお話ししたように、私が選ばれたのは「歴史に弱い」のがポイントです。
とはいえ当時のことを全くなにも知らないのも問題です。
例えば、みなさんは「阪神大震災」が何年だったかご存じですか?
私が行ってきた1997年よりも・・前だったと思う方、手を挙げてみてください。
はい、では、97年よりも、後だったと思う方。何名かいらっしゃいますね。答えは1995年、2年前です。
たった2年前ですから、復興もまだはじめのほうで、現地の人にとっては生々しい。向こうでは信州に滞在していたんですが、そこで泊まった宿で働いていた女の子は震災後の神戸を見てきたと言っていました。

さっき後の方に手を挙げた方、現地では怪しまれますよ。
あと、手をあげなかった方もけっこう居られましたけど、そちらの方はどうして?

そうですよね「阪神大震災」そのものを知らない、じつは私も歴史は不勉強だったので、西日本の方に怒られそうですけど「阪神大震災」私も覚えてなかったんです。その意味では怪しまれかねない人間のひとりでした。

そこで、プロジェクトのメンバーから「今は行く準備で頭がいっぱいだろうから、現地に無事着いてからでいい。夜にでもこれを見ておくように」と時事DBの説明を受けていました。

出かける前は装置操作をマスターするのが優先、もっぱら装置の取扱説明書、運行マニュアルばかり見ていました。
時事DBを見て、歴史やもろもろを付け焼刃で頭に入れたのは現地に着いてからです。

軽井沢のひとり部屋でパソコンを開いて、時事DBを軽くチェックしていました。まずはメンバーが「重要」ってタグ付けした記事や読み物から。Notesでは「フォルダ」というんですけど、「阪神大震災」のこともここに入っていました。
念のため、時事DBでは1997年よりも未来の出来事はカットしてあります。これは先刻からお話ししている用心のためですね。DBに書かれていないことは、この時代に居る限り、知りようがないし、たとえ知っていてもうっかり喋らないように注意しました。

サーバー側にあるので、時事DBには、今風の索引がついています。
ありがちな例ですが、「ビートルズ」で検索したら、その中に「ジョン・レノン」の記事があった。でも、その記事はビートルズ解散後のことを書いたもので、その記事のどこにも「ビートルズ」の文字はなかった、
AIが類推して、ジョン・レノンの記事にはビートルズのタグをつけてくれているからです。
データが「裏OS」の今どきサーバーに入っているおかげで、昔のままのNotesではできない検索ができます。
これは調べ物には役立ったんですが、ちょっとした失敗もありました、この話はあとで。

年別に起きたこと、流行、みんなNotesの時事DBに入れておこう。無事に過去にたどり着いたら、ためてある情報のうち、現地の日付より後の情報は削除しておけばよい。

装置の時間精度には多少の誤差はあるので、到達先の現地の年月は1996年から98年にかけてと予想していました。
時事DBには念のために2010年ぐらいまでの、新聞・インターネット・事典・雑誌の類から集めた情報が詰め込んでありました。

でも現地で、パソコンをいちいち開いて、ああDBに載ってる、この時代に、この話をしても大丈夫だ、確認しながら相手を向いて話をする、なんてわけにはゆかないでしょう?

とくに、到着した最初の日は、人と話すときに余計なことを云わないように気をつけました。なぜかといえばまだ時事DBを一度も見ていなかったからです。
夜に部屋でパソコンを開いてお勉強…高校時代の一夜漬けみたいですね。
現地の人に後で云われたんですが、私の第一印象は、「おとなしい人、寡黙な人」だったそうです!

    にんまりしたり冷やかしたりするのは、講師と知り合いの常連たちらしい。

現地に到着して最初の夜に行ったのは、今は97年の7月何日だな、と確認してから、Notesを開いて、時事DBには、記事などの年月別のビューがありますから、そこから、たどり着いた今日よりも後の記事は全部削除することでした。
これで、もうこのDBには書かれていないことを不用意に喋らないようにさえ注意すればいい、たとえば未来のニュースをうっかり喋ってしまうなんてことは避けられるわけです。


話を戻しますが、ともかくそんな経緯で、私は、携帯は持ってないけどノートパソコンはリュックに入れている、という状態で、あと、当時のお金を財布に入れて。
冷静に出来たとは思うんですが、内心ドキドキしながら装置を慎重に慎重に動かして、今日は詳しく話しませんが、けっこうあっけなく、1997年当時のとある山の中に降り立ちました。

いい加減、向こうでの様子を見せろって顔を皆さんされてますよね。では。

    正面のスクリーンには現地で撮ったと思われる写真。山を背景にして、若い女の子2人と講師のスリーショット。こころなしか講師の細い目がにやけ気味に思える。

現地の宿で働いていた女の子2人です。個人的にはそれぞれ個性があってかわいらしい子だったと思います…ただし、36年前の女子です、今では60ちかいお姉さんのはずです。
そういう現実はいったん忘れてください(笑)。

つづく