現地の人たちと最低限のコンタクトは行って成果として持ち帰りたい、でも、なるだけ現地で余計な波風は立てない、目立たないこと。「普通の人で通すこと」。ばれないまでも、ヘンな人、怪しい人だなと思われるような言動をしてしまわないよう気をつける。
装置が短時間の無人試験を繰り返していた段階では、どの年代へ向かうか、まだ決まってなかったんです。装置性能のせいもあるけど、いきなり未来へ行くのはやめとこう、見当がつかなくてこわいから(笑)と、過去へ向かうことだけ何となく合意されていました。
また、「あなたが行ってこい」と、旅するのが私になることは、けっこう早い段階でみんなから云われていました。
私が旅人に選ばれてしまった理由ですが、プロジェクトを進めている場所が日本なので、行く先も日本が自然。となると、まずは日本人であるほうが無難だろう。多国籍チームでしたが、担当役員を除いて日本人社員は3人いまして、うちひとりは、子育て中の女性でした。
残る2人のうち、私の方が「歴史に弱い」のがひとつのポイントでした。
私は理系人間で、人文歴史系が得意ではない、それにニュースにも疎くて、芸能とか音楽とかもあんまり知らない、興味がそんなにわかない。そこだけピックアップすると我ながらつまんない人間ですね(笑)。ところがそこが強みになりました。知らなければ、現地でうっかり、これから起きる未来の歴史を喋ってしまったりする危険が少ないわけです。
しかも、もうひとりは、たとえ人前でも無意識に鼻唄が出る男なんですよ。無作為にいろんな歌が出てくる・・一度本人に聞いてみたことがあるんですけど、いつのどんな曲が出てくるかは本人にも予想できてないらしい。ということは、現地で、当時はまだ生まれてもいない未来のヒット曲を、うっかり口ずさんでしまう危険が、非常に高い。よろしくないだろうと。彼は「旅人失格」になってしまいました(笑)。
さて、いつの時代へ旅するか。10年前か100年前か。
装置の現時点の性能ですと、500年、1,000年の昔に旅するなんてのはちょっと危険です。せいぜい90年か100年だろう。
で、100年前といえば昭和の初めです。戦争前で軍国主義の時代で、価値観考え方が当時の人たちとズレてしまい、あぶないのでは。そもそも生活感覚みたいなものそうとう違うだろう・・こうした遠い時代へゆくのは、避けた方が安全そうだ。
いや、50年前だって、けっこう今とは、価値観、感性、違うんじゃないの?「現地でお前と同い年の人たちは、今のお前の祖父母の世代になるよね。」
とにかく、わざわざ遠い時代を目指すメリットは薄そうだと。
さらに、パソコンを持ち込むことに決まって、それがまだ無い昔は避けることになりました、パソコンに入れることができた、昔のオフィスソフトや「Lotus Notes」が発売されたのより後の時代に絞られました。
かといって、あまり近い過去では報告に説得力がなくなります。
どこまで時代を遡ろうか、と、いろいろな要因を検討しました。
ほんの小さな一例ですが、絞り込み要因の1つとして、ケータイがあります。
持ってゆけないからですよ。
持ってゆけないからですよ。
まず、こちらの時代で現在手に入る携帯を、向こうにもってゆくのはダメ。当時の古い機種であってもダメです。というのは、機種に関わらず、今の時代に登録された電話番号をそのまま過去の時代で使えませんよね。
代わりに、現地で携帯電話を買うのはどうか?
しかし昔も今も、お店で手続きの際には、免許証など身分証の提示を求められます、もちろん私は、現代の電子化された身分証しか持ちあわせていません。
ゆえに買おうにも買えないんですね、レンタルも無理だと思います。
ゆえに買おうにも買えないんですね、レンタルも無理だと思います。
だから、現地で携帯は持たずに過ごそう、となった。
こちらの時代では、今どき、中学生以上で、そういうデバイスを何も持っていない人は、まずいないですよね。現代の感覚だと「私持っていません」なんて人が居たら「変わってるね」どころか、
普通の人のカテゴリからズレた印象を与えそうです。
携帯、持ってなくても不自然に取られないのはいつぐらいからかな?
10年、15年前・・いや20年前でも、この年代の大人は携帯くらい持っているでしょう、でも25年、30年前なら、ずいぶん普及率が下がって、私は持っていないと言っても誰も怪しまないだろう。
こと、「携帯を持たないこと」に関しては、四半世紀以上前がよさそうだなとなりました。
こんな感じでいろんな要因の、いい・悪い、許容できる・できない…を検討し、20世紀の終わりころがターゲットに設定されました。
こんな感じでいろんな要因の、いい・悪い、許容できる・できない…を検討し、20世紀の終わりころがターゲットに設定されました。
(つづく)